Tコードについて

前田 薫

●はじめに

T-Code は東京大学理学部情報科学科山田研究室で開発された 無連想式2ストローク漢字入力方式です。ここでは X68000 版 T-Code 入力デバイスドライバ tcode.x を使用するにあたって 必要最小限の紹介をします。このファイルは前田薫が作成した ものであり、不正確な記述を含む可能性があることをあらかじめ お断りしておきます。

●2ストローク入力とは

漢字入力は現在「かな漢字変換入力」が主流であると思われます。 しかし、かな漢字変換は判断を必要とする作業であり、大量の 文書を入力するのには向きません。

2ストローク入力はキー二打鍵の組み合わせで漢字一文字を表す ことによって漢字入力を行う入力方式です。キーの二打鍵で常に 一つの文字を入力することになるので、文章の入力はリズムを くずすことなく行えます。ただし、2ストロークで表せる文字の 種類には限りがあるため、2ストロークで入力できない文字を いかに入力するかが問題になります。

漢字に対するキーの割り当てには連想式と無連想式があります。 連想式というのはキーの組み合わせと文字の間に連想があるものを 言います。例えば「トキ」で「時」を表すなどの方法です。一方 無連想式というのはそれらの間に連想関係がないものを言います。

一般に連想式は習熟にかかる時間は短くてすみますが、ある程度 上達してしまうと打鍵速度が上がらなくなります。その理由は文字と 打鍵位置の間に関係があるために入力が思考によって邪魔されて しまうためと、もともと入力する時のことは考えられていないために awkward sequence が多くなり指に負担がかかってしまうためです。

無連想式では入力時の awkward sequence が最小になるように 打鍵位置を決められるため、習熟すればするだけいくらでも速く 入力できるようになります。しかも変に思考に邪魔されることが ないため、英文タイピストのようにおしゃべりをしながら文書の 入力ができるようになるといわれています。そのかわり打鍵位置を 覚えるまでは、何の手がかりもないのですから長い時間をかけて ひたすら覚えることになります。

2ストローク入力式は手書きの文書を計算機に入力する時に最大の 効果が期待できます。目から入ってきた文字を言語中枢を経由する ことなく手で打つことができるからです。しかし、頭で考えながら 文章を入力するときには必ずしも最善の方法ではないかもしれません。

●Tコード

Tコードは左右20個ずつ、合わせて40個のキーの二打鍵で文字の 入力を行います。Tコード用のキーボードを見ると、その第一印象は 真っ白なことです。真っ白なのはキートップに書くべき情報が何もない ことから納得できます。次にもっとよく見るとキーが長方形に 並んでいることに気づきます。キーの配置が長方形だというのは、 「上段が左に、下段が右にずれて」いないということです。タイプ ライターに由来するこの「ずれ」は電子化された今のキーボードには 必要ないからです。

Tコードは片手あたり5列4段の20個のキーを使い、人指し指は 2列分を受け持ちます。この形から通常のキーボードでも(ずれている ことをがまんすることにして)Tコードを使用できることがわかります。

Tコードでは40個のキーの二打鍵、1600通りの打鍵位置のうち 現在約1200に文字を割り当てています。新聞などの記事を入力する 際には、入力するべき文字の約95〜98%がTコードの二打鍵で入力 できるといわれています。

●ストローク表の見方

Tコードの打鍵位置の割り当てを表にまとめたものがストローク表です。 このパッケージには tcode.st として入っています。この表は大きく 四つの部分に分かれています。それぞれ、5×4の文字の長方形が5×4個 並んでいます。そのうちの一つを見てみましょう。
RL

  ■■■■■  ■■■■■  ■■■■■  ■■■■■  ■■■■■
  請境系探象  尚賀岸責漁  舎喜幹丘糖  布苦圧恵固  姿絶密秘押
  盛革突温捕  益援周域荒  康徒景処ぜ  邦舞雑漢緊  衆節杉肉除
  依繊借須訳  織父枚乱香  譲ヘ模降走  激干彦均又  測血散笑弁

  酸昼炭稲湯  貿捜異隣旧  攻焼闘奈夕  盤帯易速拡  汽換延雪互
  歩回務島開  キせ区百木  や出タ手保  コ山者発立  ナ金マ和女
  給員ど代レ  分よル千ア  7か(トれ  きっ日国二  上く8え年
  相家的対歴  付プばュ作  内工八テ見  九名川機チ  サ建パ第入

  桜瀬鳥催障  典博筋忠乳  採謡希仏察  君純副盟標  犯余堀肩療
  中スもお定  わラ東生ろ  う4)十リ  あこ6学月  本さら高シ
  3と〇てる  ーした一が  い、の51  。◆0・2  ではになを
  ッ人三京ち  ロク万方フ  んまンつ四  けイす電地  業時「長み

  呼幅歓功盗  紀破郡抗幡  房績識属衣  去疑ぢ綿離  秒範核影麻
  店持町所ほ  全じ自議明  バ部六経動  後間場ニ産  問ム七住北
  行ド小ジ  通カ社野同  だり―め大  新」9子五  事田会前そ
  海道ず西げ  当理メウグ  不合面政オ  委化ビ目市  気売下都株
表の左上に「RL」と書いてあるのは、この表が一打鍵目は右手、二打鍵 目は左手で打つ文字の表であることを示しています。小さなブロック内 での文字の位置が一打鍵目の打鍵位置を、そのブロックが全体の中で どこにあるかが二打鍵目の打鍵位置を表しています。例えば「円」と いう字は左下のブロックの中にあり、その中で中央中段にありますから、 一打鍵目は右手中指のホーム・ポジション、二打鍵目は左手小指の 下段(「Z」のキー)ということになります。

この表の中で「■」で表された打鍵位置には現在文字が割り当てられて いません。また、「◆」と「◇」で表された打鍵位置はそれぞれ 部首外字入力、混ぜ書き変換入力の開始を表しており、文字は割り当て られていません。

さて、入力したい文字をこの表か捜すのはかなりホネが折れます。 文字コード順の表もぜひほしいところです。山田研にはこのための表が あり、tcode.x のヘルプ機能によって画面最下行中央に出るような 「ドット表現」でストロークを表しています。なぜ通常のキーボードでの 文字(アルファベット)で表さないかというと、一度「前はlb」のように 覚えてしまうとアルファベット読みが抜けるのにかなり時間がかかるから です。また、キーボードによっては最上段の数字キーが一つずつずれて いたり、人によっては Dvorak 配列で英字入力をしていたりするので、 キーの位置を直接表現できなくては意味がありません。山田研式の表現は 残念ながら通常のテキストファイルにならないため、このパッケージには 入れておりません(誰か PostScript ファイルにしてくれないかしら)。 → ftp://fujiwara.chuo.chiba.jp/pub/hasida-0.6.tar.gz

●Tコード入力練習用プログラム

Tコードで入力できるようになるためには、文字を入力するための 打鍵位置を覚えなければなりません。このための教育ツールとして Computer Aided Touch Type Trainer 、略して CATTT(キャットトト)が あります。これのMSDOS版を DOGGG(ドッグググ)といい、 Human68k にも移植されています。Tコードの習得には、ぜひ DOGGG で 練習されることをおすすめします。ただし、CATTT/DOGGG の練習用 テキストはまだ全部そろっておらず、全部そろうかどうかも怪しい 状況となっています。

●外字入力

Tコードに割り当てられていない文字をTコード用語で「外字」と 呼びます。外字の入力のためにストローク表で「◆」と「◇」で 表された打鍵を用いることになっています。Tコードで規定されて いるのはここまでで、これを部首入力、混ぜ書き変換に使っているのは 実は tcode.x の都合です。

●部首入力

外字の入力をするのに、Tコードに割り当てられている文字の部首を 組み合わせる方法があります。漢字を構成している部首を含む文字の 組み合わせで文字を入力します。 実際には漢和辞典にのっている部首ほど正確ではなく、文字の形を元に かなりいいかげんにできています。以下に、代表的な部首を代表する 文字を示します。
ア、院:こざとへん	イ:にんべん		ウ:うかんむり
エ:工			オ:てへん		サ:くさがんむり
シ:さんずい		ヌ:又			ネ:しめすへん
リ:りっとう		レ:礼のつくり		ロ:口
ワ:わかんむり		ン:にすい		部:おおざと
性:りっしんべん		独:けものへん		四:あみがしら
図:くにがまえ		え、之:しんにょう
これらの文字だけでなく、部首を構成要素として含んでいるような 文字で代用することもできます。以下に、いくつかの例を示します。
ロ+ル→兄	日+生→星	シ+談→淡	重+点→薫
病+波→疲	図+木→困	国+木→椢	頭+川→順
石+白→碧	言+売→読	ア+良→限	水+う→永

知+上=矢+上→↑	情+語=青+言→請	性+語→悟
また、部首の引き算もできます。 頭−豆→頁 例−イ→列 列−リ→歹 麻−木→床 (頭:=豆+頁) (例:=イ+列) (列:=歹+リ) (麻:=床+木) いくつかの記号は、意味を表す文字で入力します。
た+す→+	ひ+く→−	か+け→×	わ+る→÷
等+号→=	不+等→≠	矢+上→↑	、+、→,
二文字の組み合わせで入力できない文字は、三文字以上の組み合わせで 入力できる場合があります。
劇=(七+上=虍)+リ	龍=(立+月=襲)+製
どの文字をどのように入力するかは radicals というファイルを 見てください。

●混ぜ書き変換

Tコードで熟語変換のようなことをすることも考えられます。 この場合、Tコードで入力できる文字を直接入力することで 同音異義語が減り、より効率のよい変換をすることができます。 また、接頭語、接尾語はTコードで入力できることが多いので いちいち接頭語つきの複合語として登録する必要はありません。
	き社のき者がき車でき社した

	き社→帰社、貴社  き者→記者  き車→汽車
そのかわり、一つの単語について「読み」の組み合わせが増えるため、 辞書が大きくなってしまいます。
	郵便  : ゆうびん、ゆう便、郵びん
	方程式: ほうていしき、方ていしき、ほう程しき、ほうてい式、
		方程しき、方てい式、ほう程式
このため、Tコードの習熟度に応じて確実に覚えた文字(かなで 入力されることはない)と覚えていない文字(漢字で入力される ことはない)とを与えて辞書を小さくする工夫が必要となります。 このパッケージには、この部分のツールは入っていません。 サンプル辞書にはJIS第一水準文字のうち、部首で入力できない 文字(爪、綾、亀、など)を入力するためのごく限られた熟語だけが 入っています(後日通常使用に耐えうる辞書とともにリリースしたいと 思っています)。

●おわりに

これからTコードを使ってみようと思っている人たちへ。

Tコードの習得はつらいです。DOGGG の練習テキストは読んでいると 気が狂いそうになります(例:「はるになるとなのはながたのしい」)。 実務で大量に文書を入力する(しかも手書きのものを清書するため、など) 必要のある人には役に立つでしょう。パソコン通信でチャットをする ときにも役に立つかもしれません。変なかな漢字変換で「じゃない」を 「蛇内」に変換されたり「できる」を「出来る」に変換されたりするのに うんざりしている人にはいいかもしれません。

Tコードが日常的な文章を入力するのに役に立つかどうか判断できるまで Tコードを練習してしまうと、もうかな漢字変換はまどろっこしくて 使っていられないでしょう。そうなる前にめげてしまった人、あなたは 正常です。

スローテンポの歌を聞きながら歌詞をちゃんと入力できてしまうのは 快感であるのです。

ASK68K も ATOK も VJE も SKK も Wnn もいらない!

                                   kaoru@is.s.u-tokyo.ac.jp
(Subject: [T-code:1278] Re: Tcodeイントロダクションの著者?
 Date: Mon, 14 Jul 97 18:28:21 JST)より

tcode Page by Makoto Fujiwara